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部屋を出るとすぐそこにさっきの男が壁にもたれ掛かっていた。
男はすぐに俺が出てきたことに気付き、俺の姿をとらえた瞬間何故か、停止した。

「どうかしましたか?」
「……いえ。なんでも。」
声をかけてみたらすぐ戻ってきたようだけど。
でもまだ少し、意識がどこかに行ってしまっているような感じだ。
なんなんだ、一体。

…まぁそんなことはもうどうでも良いだろう。
とりあえず、例の眞王廟とやらに向かって歩き始める。



あぁ、そうだ。

「失礼ですが。」
一歩程前を歩くその男は、わざわざこちらを向いて立ち止まった。
俺は先を促してから、話を続ける。

「名前、何と呼べば宜しいですか?」
重要だよな、一応。
呼ぶ度に悩むのは嫌だし。
名前は長すぎて覚えにくいし。
というかそんな名前は覚える気ないし。

「フォンヴォルテール卿と呼ばれたり、殿下と呼ばれたり………グウェンと呼ばれたり。
 なんでも好きなように呼んで下さって構いません。」

ふぅん。

「じゃあ殿下で。」

理由→短くて覚えやすいから。以上。



その後馬車に乗り込み、何事もなく眞王廟に着いて。
門番のような人に、会った覚えも名を名乗った覚えもないのに何故か、

「お待ちしておりました。」

と言われ、中へと勧められた。

…何故。

あ。

「殿下。案内有り難うございました。」

それだけ言ってすぐに歩を進める。
そうしたら、異様に髪の長い少女が立っていた。

…誰?

「お待ちしておりましたわ。さぁ、眞王がお待ちです。こちらのお部屋へどうぞ。」

訳も分からぬまま、この部屋に居る人が教えてくれるのだろう、とひとりで部屋に入る。


そこは誰か人の部屋と言うような感じでは全くなくて。
ただ池があるだけの広い部屋に思えた。
多分そのせいだろう。
池が何か特別なもののように感じている自分が居る。

居ると思っていた知らない人も、辺りを見回してみても居る気配がない。

…なんなんだよ。
待っているんじゃなかったのか?

軽く苛立ちながらも部屋の中を歩き回り、人を捜す。

ふと、小さな笑い声が聞こえた気がした。

何処だ?

『捜しても、俺は見えないよ。』

……は?

『聞こえているだろう?待っていたよ、。』

なんだ、これ。
頭に直接、言葉が流れ込んでくる感じがする。

『あぁ、そうか。まだ記憶が戻っていないんだったな。』

記憶が、戻っていないだと?
一体どういう…

『簡単に教えてやろう。どうせその内戻るのだからな。』





『約4000年前、という一人の男が居た。
 そいつは強大な防御の力を持っていてな。多くの者に守護神と呼ばれ愛されていた。
 そして、後に眞王と呼ばれる男、つまりこの俺と共に創主を封印し、この国を築き上げた。
 それが、お前だ。』



何を言っているんだ、こいつは。
どうにかしちゃっているんじゃないか?

『それから、この国を永遠に守り続けているのだ。』


…馬鹿らしい。
無意識に、溜息が出ていた。

あまりにも呆れて、だ。

「悪いが、人違いでは?俺にはそんなことをした覚えはないんでね。」

『言っただろう?お前はまだ記憶が戻っていないのだ。覚えているはずがない。
 その内わかるさ。俺の言ったことが真実だと言うことがな。』

そんなこと、あって堪るものか。

『それに…この俺が見間違えるはずがない。昔と変わらぬ、その姿を。』


「ッ…そんなこと、信じられる訳がないだろう。
 俺はな、突然そんなこと言われて、はいそうですかと受け入れられる程単純には出来ていないんでね。」

すこぶる機嫌が悪い。
一刻も早く現実の世界に戻りたい。
こんな茶番に付き合っていられるものか。

再び、小さな笑い声が聞こえてきて。

無意識に、唇を噛む。

『まぁ無理もない。しかしお前はもう逃れられない。
 受け入れるしか、ないのだよ。』

逃れられない、だと?
冗談じゃない。

「話はもう終わりだな。俺は帰らせて貰う。」

どこに、とかは考えていない。
ただこの部屋から出たかっただけだ。

『あぁ、暫くは好きなように過ごしていると良い。寝ているのが、一番良いだろう。』

嘲笑ってやった。

「それは楽で良いな。」

俺は早足で扉に向かっていった。


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