「…知・速・技…天下一…?」
「あぁ、『大シマロン記念祭典、知・速・技・総合競技、勝ち抜き! 天下一武闘会』とかいうものをやっているらしい。」
…長い。無駄に。
アーダルベルトってば、よく覚えられたね。
「略してテンカブだとよ。」
わぁ、大胆。コンパクトー
覚えやすいねーうん。
「一体全体どういう競技?」
武闘会というからにはやっぱり戦うんだろうか。
観客まで巻き込んじゃいそうな特殊技を使ったり?
…うーん。
アーダルベルト情報によると、各地域から代表を選出してチームを作る。
まずは筆記試験をして、合格したチームはすぐにソリに乗ってここまでくる。
ちなみに、そのソリを引く動物は何でも良くて、噂では地獄極楽コアラからマッチョな男共まで幅広いらしい。
…コアラならまだ良い。
ちょっと…いや、かなり怖いけどまぁ速そうだし。
可愛らしいところもあるし。
…でも、マッチョって…
何人でだろう?
…うわ、ちょっと想像してみただけでも吐き気が…
ゴメンナサイ。無理です。生理的に。
「そして、一番に到着した組が前回優勝した大シマロンと直接一騎打ちだ。3人勝ち抜きでな。」
あ、やっぱ武闘会なんだ。
で、特殊技は?有り?
「優勝組には何でも一つだけ願いが叶えられるんだとよ。」
へぇー
「なんでもかぁーそれはいいね。絶対喜ぶもん。」
下手な優勝カップとかより、ずっと頑張っちゃうし。
結構良いことするじゃん?ちょっと見直したかもー
「ちなみに、今一番で走っている組にはお前の相方もいるらしいぞ。」
…え?
相方? それってつまり…
「有利が!?」
「あぁ。もうすぐ着くんじゃねぇか。」
嘘…
本当?本当に、本当?
有利に、会える?
もう、何ヶ月会っていないだろう。
会いたい。早く、早く。
突然、大歓声が聞こえてきた…と思ったら、すぐにブーイングに変わった。
きっと、トップが現れたんだ! 有利!
「…こっちだ。」
アーダルベルトに腕を引かれる。
もちろん、僕は素直にそれに従った。
でも何故か、進むにつれてその声の元とは離れていくばかり。
どこに、行くのだろう。
「アーダルベルト?」
声をかけるも、歩く速さが少し緩んだ位でアーダルベルトは前を向いたままだった。
「案ずるな。特等席で見せてやるさ。」
…どういうこと?
ここはどこ?
建物の中に入ったはいいものの、なんとなくアーダルベルトに話しかけられる雰囲気ではない気がする。
どこか、廊下を歩き続ける。
足が止まった。
「…悪い。」
「え?」
何?何が?
「……いや、なんでもない。」
…気になる。ううん。言いたくないんならいいけどさ。
「ここは?」
もう、聞いても良いよね。
「闘技場だ。」
…と、いうと?
「我が大シマロンと、知・速部門の首位であるカロリアがここで戦うんです。」
「…え?」
懐かしい声が、聞こえた気がした。
でも、気のせいじゃなかった。
嬉しさが湧き上がると同時に、何故か、頭も混乱してきて…どうして、なんだろう。
「コーリ、ですよね。」
あの頃と変わらぬ笑顔で、そう確信しているように聞いてくる。
「…はい。」
コンラートが、苦笑する。
何となく違和感を感じる彼の服に、僕は何故か、前のように接することが出来なかった。
彼は、彼だ。
それは、紛れもない真実で。
でも、なんだろう。
なんだか、何処かが、おかしい気がする。
これはきっと、服のせいだけではないはずだ。
「どうして。」
情報処理能力が、低下している。
頭が、付いていかない。
これは一体、どういうこと?
その服は、何度か見たことがある。
そして、彼がその服でここに居るってことは…つまり?
…いや、本当はきっと、もうすでに、分かっている。
でも、頭が拒否していて、気付かない振りをしているんだ。
認めてしまったら、自分が傷つくから。
感情とは裏腹に、頭はだんだんと鮮明になってきて。
…だめだ。泣いちゃ、いけない。
何で…何でこんなに涙もろいんだろう?
必死に、堪える。
「どうして…コンラートが、ここに?」
見てしまったら、堪えきれなくなるから。
だから、彼の瞳を見ないように、足元を見ていた。
彼は、ここにいるべき人じゃない。
その服は、彼が身に着けるようなものではない。
一体、ぼくが居ない間に何があったんだよ?
「さぁ、どうしてでしょう?」
さも愉快そうにそう答えるコンラートに、僕は溢れそうなものを、抑えた。