0-1
「…予備校?」
「えぇ。」
「どうして?」
どうしてわざわざ、予備校なんかに通わそうとしているんだろう。
俺なら別に自主学習だけで高校くらい合格できると思うんだけど。
「念には念を、よ。
確かに学校での成績は良いかもしれないけど、井の中の蛙って言葉もあるじゃない?
入って損はないでしょう。」
…つまり、俺を信用してないって訳だ。
俺の実力を知ろうともしないで…
「拒否権はないわよ。」
溜息ひとつ。
***
予備校に通うようになって、いつの間にか2週間程経っていた。
「ねぇ。」
帰る準備をしていると、声をかけられた。
…俺、だよな。
すぐ前に人立っているし、そこから声がしたし。
顔を上げてそいつを見てみると、案の定知らない奴だった。
「僕、村田 健って言うんだ。君は?」
何だ、こいつ。
「…… 。」
「 かぁ〜良い名前だね。よろしく!」
そう言って右手を差し出された。
「………。」
「あれ?ほら握手握手。」
俺はよろしくするつもりなんかなかった。
だからそれに応じなかったら、向こうから無理矢理やらされた。
人の意志を無視して慣れ慣れしくするものだから、癪に障ったんだ。
「お前、何がしたい訳?」
そう言うときょとんとした顔をされて、次には微笑まれた。
「仲良くしたいんだ、君とは。」
…なんで俺なんだ。
人なんて他にも大勢いるだろう。
「俺はそのつもりは微塵ともない。他を当たってくれ。」
鞄を持ってさっさとその場を後にする。
これ以上関わり合うのはごめんだ。
「あ、ちょっと待ってよ!」
「なんで付いてくる。」
「一緒に帰ろう?」
「断る。」
「付いていくから。」
…なんなんだ、本当に。
こうなったら走るか。
即断即決だ。
「え?あ、ちょっと!!」
…案外簡単に撒けたようだな。
なんて少しホッとしていたが、明日からのことなど知る由もなかった。
そして、
「あ〜ぁ。逃げられちゃったなぁ〜」
「…でも、今度からは絶対に逃がさないからね。」
なんて、村田が怪しく呟いていたことも、知らない。